町医者 松嶋大ブログ

岩手県盛岡市で「なないろのとびら診療所」を運営する町医者・松嶋大のブログです。

一歩踏み出し、一歩踏み出すこと。そして手と手を取り合う。

いつものように訪問診療に行くと、本当にタッチの差で、電動車いすでお出かけしたところだった。

まだ家を出て数秒のところだったので、声をかけて、そのまま家に戻って、診療をすることも不可能ではなかったけど、せっかくだから、後からこっそりついてゆくことにした。

(尾行みたいで恐縮だったけど、一切の悪意もありませんでした)

 

数分後、近くのスーパーに到着。

丁寧に電動車いすを置き入店された。

 

ぼくもちょっと離れて一緒に入る。

慣れた雰囲気で買物をする、その方に近づく。

 

「とくさん、こんなところで奇遇ですね」と、あたかも偶然を装い、声をおかけした。

「おぉー、先生、奇遇だね」とお返しされる。

 

この出来事から3年ほど、つい先日、無事、見送った。

いや、旅立ちを見届けたという表現が妥当かもしれない。

 

比較的、突然の別れだった。

確かに、不治の病を患い、何より超高齢だったので、いつでもおかしくなったが、想定よりは早かった。

 

こういう突然のとき、涙がボロボロと流れ出す中で本人とご家族に対面できれば、どれほど気が休まるだろう。

 

しかし、案外出ないものだ。

 

「ごめんなさいね、本当は涙の一滴でも流せればカッコがつくのでですが、今回はとにかく涙が出ません。何ていうんですかね、失礼を承知で申すと、やりきった感があって・・・」と、ご家族に伝えた。

 

付け加えるように、「今は、自分の手で見送ることができて、ただ、ホッとし、光栄です」と。

 

最期は病院かもしれないという話もチラホラとあったので、実は悲しい思いで包まれていたので、それが、臨終に接することができて、ついつい漏れ出た言葉だった。

大好きな患者さんで、ぼくが最期まで、と本当に願っていたので。

 

 

いろいろな物語があった。

患者さんも、ご家族も、ぼくを全面的に信頼し、いのちを預けてくれた。

一歩踏み出してくれた、ぼく側に。

 

となれば、ぼくが、一歩を踏み出さないわけにはいかない。

ぼくも、患者さんと家族側に、大きく、大きな一歩を踏み出して。

そして、手と手を取り合い、一緒に進む。

一緒に共同の、そして協働の物語を紡ぐ。

出会って8年ほど、一貫して、ともに歩んだ。

 

 

ところで、見送る数ヶ月前、ぼくは、とくさんに癌を見つける。

本人にも、家族にも伝えた。

 

「難しい病気があることは本当に苦悩だけど、癌があれば、堂々と麻薬を使える。ずっと辛かった、どうしても制御できなかった、あの、この痛みを、やっと取り除けるかもしれない」

 

癌が見つかってヨカッタ!?

医者がこんなことを言っていいのだろうかとも思った。

 

でも、率直な思いだった。

とくさんの最晩年は痛みとの戦いだった。

手術を受けたり、様々な痛み止めを使ったり、町医者の限りを尽くすも、痛みをゼロにすることはついにできなかった。

 

それが、モルヒネで制御できるかもしれない。

そう思うと、不謹慎ながら、喜びというか安堵感が強く襲ってきたのだ。

 

 

いろいろな物語があった。

診療を終えると、いつも握手をして別れた。

最期が近くなったあるとき、「先生から力をもらうようだよ」と力強く握り返してくれた。いつもと全く同じ笑顔で。8年間、全く変わらぬ笑顔。

 

 

奥様を、数年前、やはりぼくも一緒に見送った。

あれから5,6年。

独り身は寂しかったでしょうね。

でも、ぼくは楽しかったですよ。

 

一歩踏み出し、一歩踏み出すこと。

そして手と手を取り合う。

 

ありがとう、とくさん。 

お疲れさまでした。

そして、さようなら。

 

 

〜オンラインサロンのご案内〜

総合診療をベースに、認知症治療と在宅医療、そして終末期医療に取り組んでいる、事象「患者バカ町医者」の松嶋大が、日々の実践をみなさんに共有し、またみなさんからも共有してもらいながら、これからの「医・食・住」を語り合うサロンです。

 

 

 

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奇遇だね!